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Marzipanを予想する

予想というか、根拠のない与太話です。


Marzipanと呼ばれるAppleのプロジェクトは、どのようなものになるのだろう。噂では、iOSmacOSのアプリが一度に作れるようになるらしい。このふたつのOSのアプリを開発する上での主要な差異は、iOSのUIKitとmacOSのAppKitの、UIフレームワークである。その他のフレームワークのほとんどはすでに共通している。この状況を踏まえれば、MarzipanはUIフレームワークであると考えられる。

そのMarzipanがどのようなUIフレームワークになるのか、グラデーションをつけて考えてみる。

UIKitの移植

もっとも単純なのは、UIKitをmacOSへ移植してしまうパターンである。macOSのAppKitは古びてきているから、より近代的なUIKitを持ってきてしまう発想である。

もちろんtvOSのUIKitのように、同じUIKitでも異なるUIを提供することにはなるだろう。それはポインティングデバイスの特性であったり、要求されるUIの複雑さに依るところである。

一方で、ひところプライベートフレームワークとして存在していたUXKitとは異なる実装方法が取られるのではないか。UXKitはAppKitの上にオーバーレイするようなアーキテクチャであったが、そのような方法では不特定多数の開発者に安定的なAPIを提供するのが難しい。

UIKitの移植は、多くの開発者にとっては、iOSアプリを少ないコストでmacOSに移植できるメリットを得られる可能性がある。ただし一定のカスタマイズが必要になる可能性もある。

まったく新しいUIフレームワーク

このタイミングでまったく新しいUIフレームワークの導入が行われる可能性も存在している。それがどのようなものになるのか想像するのは楽しい。

まったく新たなフレームワークが作られるなら、最大の関心事は、それがSwiftネイティブなフレームワークであるかどうかであろう。Objective-Cと決別することで、よりSwiftの言語機能を活かすことができる。静的型付けを活かしたSwiftフレンドリーなフレームワークは、多くの開発者に喜ばれるはずだ。その反面で、これまでObjective-Cの動的な特性を活用してきた部分は失われる。例えばresponder-chainは、まさにそのような機能であり、単純なイベントハンドリングはもちろん、メニューバーやコンテキストメニュー、キーボードショートカットからTouch Barにいたるまで、多くの用途で利用されている。そのようなものが存在しないとすれば、もはや既存のものとはまったく異なるパラダイムのUIフレームワークであるだろう。

昨今ではReactに端を発した、宣言的にビューを構築するUIフレームワークが流行している。宣言的な記述でVirtual DOMを構築し、reconciliationと呼ばれるプロセスによって実際のビューを差分更新する。最近ではGoogleもReactにインスパイアされたFlutterというUIフレームワークを開発している。

Reactの新しいFiberアーキテクチャでは、非同期的にVirtual DOMを構築できる。これによって、一見すると同期的なコードでビューを構築しつつ、実際にはその部分の描画だけを遅らせるようなことが可能になる。これは単にUIのフレームレートを改善するだけに留まらない。時間のかかる処理に依存してビューを更新することが容易になるのはもちろん、アニメーションの表現もしやすくなる。

なんの傍証も存在しない妄言に過ぎないが、例えばReactのようなパラダイムを持ち込んだものがMarzipanであるなら、とてもおもしろい。その一方で、まったく異なるパラダイムフレームワークを導入した場合は、既存のアプリをそう簡単には移植できないため、移行に時間がかかることが懸念される。

グラデーション

UIKitの移植か、完全に新しいUIフレームワークか、二者択一というわけではなく、実際にはグラデーションが存在するだろう。例えばUIKitによく似たAPIで、少し抽象度の高いフレームワークが双方に導入されることも考えられる。あるいはまったく新しいUIフレームワークではあるが、既存のアプリに部分的に取り入れられるようになっている場合もあるだろう。

いずれにせよ、すでに存在しているiOSアプリから少しずつ移行できるようになっていなければ、多くの開発者はなかなかMarzipanを採用できない。AppleにとってMarzipanの開発の目的が、macOSのアプリを充実させることにあるなら、移行のしやすさは重要である。


Marzipanと呼ばれる秘密のベールに包まれたプロジェクトについて、Appleのファンボーイ的に予想を行なった。実際にどのようなものが出てくるかは、6月のWWDCまでわからない。しかし新しいUIフレームワークを予想するという行為そのものは、単におもしろいだけでなく、UIフレームワークの理想像について考察を深めるきっかけになることだろう。

ぜひ読者諸氏も、Marzipanを予想してみてほしい。