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WatchKitアーキテクチャ概論

来年初めにリリースされるというApple WatchSDKがプレリリースされた。Appleはこれを WatchKit と呼ぶ。Apple Watchで動作するWatchKitアプリは、いったいどのようなアーキテクチャにより駆動されるのか。この興味深い仕組みについて考察する。

WatchKit - Apple Developer

ふたつの予想

Appleウェアラブルデバイスを開発しているという噂が流れていた頃、そのアプリケーションのアーキテクチャについて異なる二つの予想をしていた。

一つは、ウェアラブル端末本体で動作する通常のアプリを作るというパターン。これはAndroid Wearが採用しており、Androidのアプリを作るのとほとんど同じようにウェアラブル端末で動作するアプリを作ることができる。これが採用されると、UIKitの多くのコンポーネントが利用できることになり、柔軟なアプリを作成できる。その反面でウェアラブル端末の少ないバッテリーは大きく消費される恐れがあるし、比較的非力なSoCに最適化する必要がある。加えて、ウェアラブル端末には通常インターネットに接続する機能はなく、コンパニオンとなるスマートフォンから借用することになるが、これを実装するのは面倒な作業になる。

もう一つは、コンパニオンとなるスマートフォンの側にアプリの機能を実装し、その画面をウェアラブル端末に表示するというパターンである。すなわちウェアラブル端末をセカンドスクリーンとして用いることになる。結果としてウェアラブル端末のハードウェア上の機能に束縛されることなくアプリを作ることができる。これはApple TVを利用するAirPlayや、車載端末であるCarPlayアーキテクチャに近いものであろう。ただし、ウェアラブル端末とスマートフォンは現行の技術ではBluetooth Low Energyで接続されることが予想され、画面を逐一転送できるだけの通信速度は出ないだろうと思われる。

これらの二つの予想は、それぞれに利点や問題を持っている。ただAppleの最近の技術的なトレンドを考慮すると、後者の方に分があるように思われた。

WatchKit

プレリリースされたWatchKit SDKのページを見ると以下のように記載されている。

WatchKit apps have two parts: A WatchKit extension that runs on iPhone and a set of user interface resources that are installed on Apple Watch. When your app is launched on Apple Watch, the WatchKit extension on iPhone runs in the background to update the user interface and respond to user interactions.

すなわち、ウェアラブル端末であるApple Watchには、Storyboardやリソースファイルだけをインストールし、コンパニオンとなるスマートフォンであるiPhoneの側でApp Extensionとしてプログラムが動作する。Apple Watchのユーザーインターフェイスが操作されればそれはiPhoneのExtensionに伝わり、iPhoneのExtensionからApple Watchのユーザーインターフェイスを更新する。

これは最初の二つの予想のちょうど中間的なアーキテクチャと言える。アプリはiPhoneの側にその多くを置いて、ユーザーインターフェイスApple Watchの側で動作させる。結果として多くの問題が解決され、アプリはiPhoneの潤沢なリソースや機能を利用できるし、BLEで画面を送信する必要もない。

注意すべきは、Apple WatchとiPhoneの間のやりとりに遅延が生じることである。例えばユーザーインターフェイスが操作されたときのインタラクションはApple Watchの側で素早く表示しつつ、少し遅れてiPhoneでアクションが起きる、ということになる。このことで、iPhoneのExtensionからApple WatchのViewの様子を取得することができないようになっている。iPhoneの側で、Apple Watchのユーザーインターフェイスに行った操作を記憶しておく必要がある。

また画像リソースはなるべくApple Watchのリソースに含めておくべきである。それができない動的に生成または取得される画像は、キャッシュとしてApple Watchの側へ登録しておくことで、再表示するときのコストを大きく下げられる。

この他にも制限は多く、例えばカスタマイズされた独自のユーザーインターフェイス要素は、Apple Watchで利用できない。WatchKitで事前に用意されたユーザーインターフェイス要素だけを用いてデザインする必要がある。

総論

Apple WatchとWatchKitのSDKは、ウェアラブル端末に注意深く最適化されたものであることが読み取れる。WatchKitのアーキテクチャによって、優れたユーザーエクスペリエンスが得られるだろう。

またこれはApple Watchに限らず、その他のiOS関連機器にも有効なアーキテクチャであると考えられる。CarPlayApple TVのほか、将来登場するかもしれない新たな端末にも応用可能である。

いずれにせよWatchKitのこのアーキテクチャは、AppleiOSOS Xで長年開発してきた技術の結実である。

ところでWatchKitアプリに独自のユーザーインターフェイスを作ることは未来永劫できないのだろうか。恐らく答えはXcodeにある。Xcode 6から、Interface Builderに独自のViewを表示できるようになった。内部的には独自のViewをXcodeとは別のプロセスで動作させ、レンダリングさせているように見える。WatchKitアプリでも、Apple Watch側でカスタマイズしたViewだけを動作させることは技術的に可能になると予想できる。将来のWatchKitでそのような機能が搭載されるかもしれない。


※ 以上の内容はAppleによって公開された情報を元に書かれています。